僕たちは見えない糸で繋がっている
(赤いそれではなくて)




白い糸がぴん、と張って少しすると弛緩する。
針に通されて布を合わせていくその白と、器用に縫い物をする浜田の動く手を 見ながら、俺はぼんやりこの目の前にいる男について考えている。
家庭科、得意。
体育、得意。
そのほか勉強はだめで、なんでか意外なことに英語は、わりと得意。
鈍感なふりを、しているだけ(俺がなに考えてるかなんていつもばれている)
恥ずかしいこと平気で言う(嫌がっても)
読みきれない人間だと今更ながらに思いながら俺はくじ引きでなってしまった 係の仕事をしていた(何に使うのか聞いてなかったからわからないけれど、縫 い物的な作業だった)
「泉、そっち終わったの」
ぼんやりしている俺を不審に思ったらしい浜田がこちらをのぞきこんでくる。
「…終わる訳ねーだろ、家庭科苦手だもん」
「ははっ じゃーこっちに貸して」
もう終わったからと手を出してくる浜田の手をぱしり、と叩き落してにらむ。
「甘やかしてんなよ、これは俺の仕事」
集中するために手元に視線を落として浜田の反応を待っていたら、黙ったまま ではあるが空気が少し揺れた気がして、もう一度顔を上げる。
「……なに笑ってるんですかーセンパイ」
「いや、泉のそゆとこ好きだなあと思って」
にへら、としまりのない顔の年上のこの男は俺がどういう気持ちでいるかな んてようく知っているくせに、平気でそんなことを言う。残酷な笑顔だと思った 。
目を合わせることが出来なくって自然首はうなだれた(そうして手の先の縫い 物を見る)
真っ白な、糸だ。
「俺は泉にこころをあずけてるんだ、いまもきっとこれからも」
顔を上げたら見たことのない笑い方の男が居た。
「だから、ダメなんだよ」
ぷつん、と糸が切れた音がして俺はなんだか、途方に暮れた。銀の針が刺さっ たまま糸は解けて俺は手を伸ばす。
「俺がお前のことすきだって言ったら、どうするの」
痛そうな顔を見て、してやったりと思う(そうだお前だけ逃げるなんて許さな い)




(060510)