雨でも雪でもいいからいますぐ降ってこいつをこの場所に閉じ込めて 浜田は友達が多い。それはいいこと 尊敬できる部分。 だけどだから彼にとって特別というのは大層むつかしいもので、こいつの恋人 になるひとは大変だろうと昔ふと思ったことがあったけれど、まさかその立場 に自分がなるとは、オレは先見の明をあきらかに誤って使っている。確信。 漏れ聞こえてくる電話の内容から察するに浜田はもうすぐその電話を切って「 ちょっと行ってくる」と言って自分の部屋から出て行く、きっとそう。 それはちょっと 見たくないなあ。 「浜田、オレ帰る」 「え ちょ、泉待ってなんで」 「(はあ!?なんでわかんねーんだこんのバカ)……電話が怒鳴ってるよ、じ ゃね」 「いや待て電話は確かに怒鳴ってるけど、んなの待たせとけ、いずみ」 浜田の手が素早く動いて電話が保留されたのが見えた。相手に断りもなくそゆ ことするの、焦ってる? 「こっちおいで」 せまい部屋だから簡単に捕まって腕のなかに収められた。背中にぴっとり張り 付いた浜田に思い切り嫌な顔をしたら、なぜだかわからないけれど、にっこり 笑った。 浜田はそのままの状態で保留中だった電話に出ると、ひとしきり詫びのことば を口にした後で。 「は?だーからいまかわいい子と一緒なんだよ、なんかオレが電話ばっかして かまってあげらんなかったら怒っちゃって…つうか、気を使ったのかな?」 語尾の疑問は確実にオレに向けられている。背後から顔を覗きこまれているの だ。 「ん?でしょーかわいいでしょ、オレめろめろだもん」 できれば今、電話を切ってほしくない。 「こんなかわいいこ手放すつもりないっつーの、いちばんだいじ」 散々のろけてじゃねーなどと会話の終わりを告げることばが聞こえる。だから なんでいまなんだ、いまは無理なんだよだって、 「て、泉下向いてどうしたのー?」 「……なんでもねーよ今顔見たら殴る」 自分でもわかるくらい真っ赤な顔を見られるのは嫌なんだ。 (結局閉じ込められたのはオレの方か) (050823) |