或夜の感想 連休は合宿で三星との試合にも勝って、充実していたなあなんて満足して帰ってきたら充 実していない男がひとりいた。 合宿先は山だから電波悪くって学校のそばまで帰ってきたらそれまでにたまってたメール とか電話とかがいっきに(ってもそれほどの量じゃない)きたわけだがよく見たら半分以 上が例のバカ男で疲れてはいたけれど仕様がなく家に行ってやることにした(別に久しぶ りに顔が見たかったとかそんなんじゃない、全く全然) インターフォンを連打したらすぐに浜田が出てきて、玄関先で抱きしめられた。 「……がっついてんじゃねーよ」 「もおおおおだってすごいひさしぶりじゃんっ」 「オレたぶん汗くさいとおもうんだけど」 「いずみ臭なら全然いいです」 「……キモ」 ふざけた口調のわりに背中にまわった手とかが必死だったような気がしたのでそのまま好 きなようにさせておいた。 (しかし場所悪いよなあ、おばさんとか帰ってきたらどうすんだよ) 部屋に入るなり泉はベッドに倒れこんだ。 そりゃ疲れてんだろうなあ 合宿だったし(でもそれを押して来てくれたってすごいよな、 オレって結構愛されてる?!うわーうわー) 「お前連休なにしてたの」 ひとり内心小躍りしていたら不機嫌そうな声に遮られた。 中学時代は『浜田先輩』とかいってオレに懐いてあんなにかわいかった泉は(そりゃいま もかわいいけれど)再会したら口と態度の悪さに拍車がかかっていた(以前そのことを指 摘したら「半分以上お前のせいだ」とかって殴られた。なんでだ) 「んーと、去年のクラスメイトとかと遊んでーあとは家でのんびりしてた」 「オレらが汗水流してがんばってるときにお前は部屋でころがってたわけな」 「その言い方あんまりじゃ……」 「事実」 冷たく言い放つと泉はそのまま目を閉じてしまう。 「ちょ、泉そのまま寝ないでよ」 「あしたも部活あっから朝起こして」 「え、うんバイクで送ってくけど」 けど本当寝るんか、泉ちゃん。 仕様がないのでここは無許可だけれどさわらせていただいて今日は満足するしかない(うちに来てくれてだけでも喜ばないと、なあ) 寝顔は大層かわいいので(さっきまでのかわいくない憎まれ口はどこへ!)見ていて飽き ないし、なんといっても久しぶりだからさらさらの髪にさわったりして幸せなかんじではあ るけれど、やっぱり動いて話すとこが見たいなあ。 「こーすけ」 耳元でなまえを呼んでみる。 「てめえさっきからうっぜえんだよ!!」 「うわっあれ泉寝てたんじゃなかったの」 「寝かけたらお前がやたらさわるわ変なことぬかすわ…」 「変なことってアナタの名前でしょ」 「呼ぶな!!」 「え、なんで」 「しつこい、お前も寝ろよ」 「!!(なんて横暴な!)」 (……あれ、なんか呂律がまわってなかった、ような) 横暴なその子は言ったあとオレもベッドに引きずり込んで、人のTシャツを掴んだまま寝 こけてしまったのでそれ以上文句が言えなくなった。 間近にある寝顔を眺めながら自然上がってしまう口の端に気づいてひとり笑う。 いや、文句はないな。 やっぱ泉はいいなあと、本人に伝えたかったけれど。 |