The Kids Are Alright




栄口は言う。
「泉って本当浜田さんのことすきだよね」
最初それを聞いたときはあんまりびっくりしてぼんやり食べていた弁当の中身 をのどに詰まらせた。
(栄口はオレを殺す気か)(いい人のようでこいつは絶対腹黒い)(わかりや すい分阿部のがマシ)
「……逆じゃなくて?」
これまで自分と浜田をめぐる評価では聞いたことの無いものだった。
「うん。だって今日は浜田さん昼休み2年生のとこに行くんでしょ」
だからこんなとこ――屋上――に早々ときてるんじゃ?という栄口の目は確信 、といった感じだった。なんだか悔しくって軽くにらんだら優しく笑って頭を 撫でられる。
(なんだってこう栄口には敵わないのか)(完全に子ども扱いだし)
確かに昼休みはじまってまだ間もないのに泉は昼食をほぼ終えていて、授業が 終わってすぐにここへ来ていたのは明らかだった。
「三橋と田島は」
「今日は朝から、お昼に7組だってはしゃいでたから」
「そう」
栄口といるのは落ち着く、と泉は思う。年上のくせに世話のやける浜田とは大 違いだ。
(あいつは落ち着く、とはちょっと違うかんじ)



「泉、どうしたの」
今日何度目かな、そのセリフ。
「今日1日中それ言われたんだけど、」
なんでかなと言いながらソファから降りて浜田の丁度正面に座る。
「だってぼーっとしてんだもん、ちょっと」
中途半端にことばは切られて何言ってんだろとぼんやり見ていたら大きな手が 前髪をよけて額を合わせられた。
「顔近い」
「うん」
「……熱はないね」
「カゼじゃねーもん」
「……昨日」
「……昨日のことで責任感じてんならそれ迷惑だからね」
浜田が俺の首元に残る痕を見ているのがわかったので一応釘をさす。まあ俺が ぼんやりしていることの原因はそれだけれど。
「セックスくらいで体調崩すか」
「……はっきり言うね」
苦く笑った浜田は俺の後ろにまわって抱え込むようにして座った。
なんだか捨て犬みたいに見えたので、仕方が無いから俺は何を考ていたのか教 えてやることにする、我ながら甘いな。
「えっちしたらさ、なんか安心できるのかなって思ってたんだよ。でもそんな ことなかったから、」
「……」
「どうやったら安心できるんだろうって、ずっと考えてた。別に不安なのは嫌 じゃないんだけど」
「……俺は安心できないってこと」
「うーん、そういうのとは違う」
「今も安心できないの」
「……そんなことない、眠くなるし」
「じゃあここに、この部屋にいるときはこうしててあげるから」
そんなさみしいこと言わないでと消えそうな声で言った。俺はやっぱり浜田の 方が俺のことすきなんじゃないかなあと思いながら、そのままじっとしていた 。



「泉、」
練習が終わって部室で着替えていたら浜田が入ってきた。みんなに挨拶とかを しながら近寄ってきて一緒に帰らないかと言う。黙ってたっていつもは待って いるくせに、昨日のことが気になっているのかなあ。
「…ちょっと、」
俺は人目を避けるために浜田を連れて外に出る。
「どしたの」
「……」
「あ、帰るとき約束とかしちゃってるならいいんだけど」
「はまだ」
「ん?」
なんだかこんな他人行儀みたいなのは俺たちには合わないよ、ていうか俺が嫌 だ。でも全体俺の気持ちの問題のような気もするので、耳元にキスしてやって ついでに待っててと言った。
呆けているそいつに去り際「いちいちへこんでんじゃねえよ!」とカツをいれ ることも忘れずに。
部室に戻ったら栄口が数日前とおんなじことを言いたそうな顔をしていたので 先回りして今度は言う。
「好きだよ、浜田のこと」




(051016)恐れ多くもひとさまに献上したものでした。