祝福は平等に降る

1

「泉、今日うちに
「行く」
「……」
「なんだよ、文句あんの」
「いや、珍しいなあとおもって」
「誕生日祝うつもりなんだろ、俺の」
「あれなんでばれてんの」
「昨日しまりのない顔で意気揚々と先に帰ったじゃねえか」
準備、してたんだろ、などと言われてはもう降参するしかない。
「あちゃ〜かっこわるいのね、おれ」
「大丈夫、かっこいいなんておもっちゃいねえよ」
そこでようやく泉は今日最初の笑顔を見せる。
「おめでとお、泉」
ありがとうとまた笑った顔が最高にかわいかったので俺は場所も考えず抱きし めてその後思い切りよく殴られた。


2

「……」
「……」
「……」
「あの〜泉ちゃん」
「…あんだよ」
「(うおっガラ悪い〜)なに、じゃあなくって、この手はなんなのかな」
「!」
言いたいことが言えないもどかしさからか、無意識で掴んでしまっていたらし い手を驚いて離す。
「あ〜〜だからああ!」
「う、うん(なんか今日こええええ)」
「推して知れ!」
「え、ちょ、そおれは無理でしょ!」
「『今日家に来て』」
「はああ?!」
「当たってんだろ」
突如出てきた田島が通訳然として言う。
にしし、と笑って一石どころか俺にしてみれば大岩をぶち込んだ田島を追い払 ってふと浜田の方を見れば、締りの無い顔、ああどうしてこんなに感情表現が ストレートというか単純なんだ、いやそれは知っててこの関係なわけであるが 。ため息ばかり出るこのわかりやすさ、だけど今日ばかりはうれしいかもしれ ない。そういう俺も簡単に出来ている、きっと目の前の幸せそうな男より。
「泉、今日祝ってくれるんだ?」
「あたりめーだっつの!」
意を決して手のひらに力を入れる。こうして祝えるのは何度目になるのかな。
「誕生日、おめでとう、浜田」


(051127)「よ」よろこぶ(お互いに)


ゆびきりでは切れない

「ねえ、せんぱい」
後ろから服の端をつかまれて振り返ればいつもの後輩が居た。
練習が終わって部員たちはみんな早々に帰り支度を始めているなか、グラウン ドにはぼんやりと突っ立っていた俺と、その俺を呼んでいる後輩しかいない。
夕日がまぶしい。
「泉、今日うち来るの」
「なんか都合悪いの」
いつもは聞いたりなんかしないのに、そう言い返して見上げるその目は日が射 してキレイな色をしている。このままこのこは、身長なんて伸びなきゃいいな あと、大変身勝手なことを思ったりする。
(見上げる目が すきなんだよなあ)
「おい浜田、聞いてんの」
「………いずみい」
「なに」
「敬語」
「……面倒くさい、浜田なのに」
「おっまえなあ、俺はいいけど他の3年に聞かれたらどうすんだよ」
外では敬語使いなさい、そう言って帽子を脱がせて頭をわしゃわしゃ撫でたら 、うっぜえ!とかなんとか文句を言う。
「……
「なんて顔してんの」
「……どこでそんな汚いことば覚えてきたのかなあ」
「お前じゃねえの」
「……う〜ん(言ったかなあ)」
「いいから帰んぞ」
「はいはい」
ちいさな背中の後を追う。俺はなんだかこの年下に敵わない。



「いずみ、今日は一緒に寝よっか」
泉がうちに来るのは週末は恒例になっていたから、別段普段と違うこともなく 、そのまま一緒に帰ってきて、夕飯を食べてゲームやったりしてだらだら過ご して、さあ寝るか、という段になってシーツを洗ったことに気づいた、しかも 干しっぱなし。だからそう言ってみただけだったのに、泉は随分驚いたような 顔をして、そうして固まった。
(あれ、なんかへんなこといったかなあ、必要に迫られて、なんだけど)
「……」
「……えーと、泉」
俺が話しかけると見て明らかにわかるくらい肩をびくつかせて、顔を上げる。 そうしたらなんだか一大決心をしたような感じだったので、驚いて、
「どうしたの、いつも泉が使う布団のシーツ洗濯しちゃって乾いてないから、 なんだけど」
「!」
一瞬固まって、みるみるうちに顔が赤くなっていくのをあんまりにもびっくり して凝視してしまったら、その顔のまま思い切りにらまれた。ちっとも怖くな いっていうか、かわいいんだけど。
「ばかはまだ!」
「?」
さっぱりわからない、て顔をしていたのがばれたらしく、べちん、と音をたて て頬を打たれた(んんんん?なんで)
下を向いたままの泉の手がぎゅっとなんだかかわいそうなくらい握られていて 、思わず黙ったままその手を取ったらなんだか怯えたみたいに体が揺れる。
(あー……………)
もしかしてなにかとても、大事なことを決意させてしまったんだろうか
「寝よ、こっちおいで」
真っ赤になって下を向いてしまったままの泉に苦笑しながら、先にベッドに入 って布団を少し上げて中に誘う。
泉はずんずんとこちらに向かってきて俺の腹辺りになんのためらいもなくケリ を一発入れて(先輩に対する態度とは思えない!)そのまま布団の隙間にダイ ブ、俺に背を向けて眠ってしまった。
後ろから引っ付いてごめんねと小さく言う
「……おやすみ」
ふてくされてた声ではあったけれど夜の挨拶はきちんと返ってきた。
「泉がもうすこし大人になったらね」
布団の中でゆるく小指を絡ませて、もうすこしみらいの約束をする。


(051114)「ゆ」ゆびきりをする