願うひかりの下




「なにをそんなに熱心にお願いしてるわけ」
視界はとじられていてもその左下方からかけられるおもしろくなさそうな声が 、誰のものかなんて聞くのも馬鹿馬鹿しい。
「泉」
あけましておめでとう、今年もよろしく、とへらりと笑って挨拶すれば全く隠 そうという努力の見られない様子で不機嫌に、お前なんかよろしくしてやるか と返された。新年早々、なんか、色々全開ですね泉ちゃん。
「……泉と〜もおおっといちゃいちゃできますよおに!て
「アホか、本当は違うくせに」
「冷たいねえこれ本来なら神様なんかんにお願いしなくたってさあ、泉の協力 さえあったら解決できちゃうんだけどねえ」
「ありえな〜い」
「あんね、大吉おれが引いたのがそんなに気に食わないの、それとも自分が凶 だったのが悔しいの、今朝無視したのが嫌だったの」
「……全部」
野球部のやつらの前では感情はほぼ全開だけれど、こんなふうに子どもっぽい ところを見せるのはおれの前だけだって、知っている。だからこそおれはいつ までも調子に乗り続けるんだ。
(それにきっと人ごみではぐれるから、といま手を繋いだことも、気に入らない はず)
「も〜本当泉ってかわいいんだからなあ」
新年初なので無礼講、と思わずぎゅーとしたら鮮やかに殴られた(思い切りい いな)
勢いあまって尻餅をついたままへらり、と笑って見上げれば、眉間に深いしわ を作って見下ろされる、あ、なんか泉に見下ろされるのっていいかも(ただそ んなことされても俺が怒らないことさえ、泉は気に入らないんだろう)
お馴染みになった深いため息をついて泉は俺に手を差し出す。掴まって起き上 がれば左手はそのまま握られていた。
2年前のあのころのように、握って、右ポケットに収まる(まるでそこが正し い場所のように)
「もうさあお前ってちょーアホ信じらんないなんでそんなに俺のことすきなの 、かわいいからなの生意気だからなのエロいからなの」
「え、全部です」
勢いに圧されて後退しながらも正直に言ったら泉がおかしそうに笑い出した、 俺も笑う。
君のとなりで、笑う。




(060104)