※山崎が土方より年上なことになってます(山崎27土方21とか…)
※真選組っていうかその前段階くらいの組織の感じ(曖昧)
※二人は出来てないですけどその割には、なんつうか触れ合いが多いような
※なんか山土ぽいけど土山です

オーケィ!て方だけどうぞ!






かの世界はどんな姿をして目が眩む












一 目隠しの手首のこと


初めてその頬を張ったのがいつだったかは不明瞭だが、しかし顔面から表情が 一気に消えて、何故かその様子にこちらがそら恐ろしい気持ちにさせられたこ とは、今でもはっきり覚えている。それから何度殴っても同じような顔をする が、どうにもその顔は俺を不愉快にさせた。今日もまた同じく。
「他に報告することは」
「…ありません」
「じゃー部屋戻ってろ」
山崎は一度も顔を上げないまま黙って出て行った。きっと右頬は腫れているの で、上手く口をきけないのだと思う。口の中を切ったかもしれない。
煙草を吸おうとしてライターが見つからなくて(さっき山崎に向かって投げた かもしれない)余計に腹が立ったので火の付かない煙草をそこいらに投げた。
殴った一瞬後の顔がちらついて、どうにもよくない。手首に違和感もある。
「どうして、俺が」
あいつのことなんかで苛々しなければ、ならない!



大量の氷が入った袋とタオルを持って部屋に現れた副長は死にそうに不機嫌な 顔で仁王立ちのまま入り口から動かない。
さっき殴られたときに口のなかを切った所為で血の味がする。出来れば話した くないなあとは思うが、このままの空気に堪えられない。ていうかものすごい 不機嫌な状態で部屋に来るのはやめろ、めっちゃこわい、いやマジで、本当頼 むから部屋戻ってくんないかな、とここまで一気に考えていたら副長のことば を聞き逃した。あれ、非常にまずいよねこれは。
「すいません聞いてませんでした!」
「痛むのかって聞いてんだよ何度も言わせんなこのバカ!」
下手に誤魔化そうとすると後が面倒ですので、こういうときは素直がいちばん !と清清しく謝ってみせたら、その勢いのまま怒られた。今更なに言ってんの かこの人は。
「今更なにを。そりゃ血ィ出てますから痛いですけど、」
こんなのいつものことでしょう、と言えば副長の方が痛そうな顔をしたように 見えた(なにぶん表情の変化が乏しいので)ここまで会話して気づいたが、副 長は俺の部屋にまだ入ってきていない。障子を開けて、廊下に立ったままであ る。
「……入ったらどうです、それ俺にくれるんでしょう」
手に持ってきたものを指せば、漸く思い出したようで、しかし、こちらには来 ない。
「俺はいますごく苛々してる。わかるか?」
「わかりますよ、そりゃあ。何年アンタの側に居ると思ってんですか」
「じゃあ苛々してる俺がお前に近寄ったら、どうなるかわかるだろ」
「……それこそ今更でしょ」
「俺はもう、お前殴るの嫌だよ、うんざりだ」
「……なに駄々っ子みたいなこと言ってんですか、こっち来てくださいよ」
「嫌だ」
「年下ぶったって可愛かないですよ」
手を引いて中に連れ込む。どうもこのひとは鬼にしては優しすぎていけない。
「副長、俺はべつにこわくない」
「……」
「怖いのはアンタ、急に意識してしまったからでしょう」
近寄ったらあからさまに身体がびくついた。
「俺なんかのことで、そんなに気持ち遣ったら勿体ないです。アンタはそんな 小さなこと、たったひとりの部下のこと、気にしなくっていいんですよ。俺は 平気です」
多少の嘘が混じっていたが、俺は目を見て話すことも出来る。年の功と言うよりは性格の問題であるけど、この正直者を前にすれば余計だった。
「俺は平気じゃねえよ」
まだ痛そうな顔のまま副長は言う。
「なにをそんなに怖がってるんです。かわいいなあ」
「うるせーよ怖がってんじゃねえ、腹立ててんだ」
「うそ」
手首を取って距離を縮める。障子を閉めて、さあここには二人しかいない。手 首を掴んだ俺の手は柔らかく外されて、漸く大量の氷とタオルが役目を果たし 始める様子。
「嘘じゃあない」
副長の手は適当に取った氷を丁寧にタオルに包んでいく。その冷えた手は俺の 後頭部を掴んで、キスでもされるかと思う仕草だが、結果は胡坐をかいた副長 の膝に頭を落とされた。
「なんだ、ちゅーでもしてくれるのかと思った」
「茶化すな」
「はい」
俺はぶたれた方の頬を上にして膝枕、その頬には氷の仕込まれたタオルが載せ られる。髪を撫でるついでみたいに目隠しをされて、副長の表情は見えなかっ た。
「嘘じゃあねえんだよ、腹が立つ。お前のことを殴ることが、怖いと思う、そ のことに」
「……それね、なんでだかわかります?」
「なんだよ」
「アンタは俺のことが好きなんですよ」
「そうなの?」
「そうです、でもそれは気の迷いなので」
「いやお前、」
副長はなにか言いかけたがわざと遮る。ことばにするということは、現実とし て意識することだ。
「いいえ気の迷いです。なのでせめて迷っている間くらいは、不肖この山崎が 手をお引き致しましょう」
視界を遮る手を取って、手首に口を付ける。ちらりと見上げた顔は迷子のそれ だったので、苦笑い。
バカはアンタなんですよ!








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こんなんで黙っているほど土方はかわいくないので、まだ続きます。すんません
070712