いつも通り沖田と殺し合いをして苛々しながらも、いや良い運動になったとこころの中でまで見栄を張りながら自室の障子をからりと開けると、先客がいた。 今朝畳んだはずの布団をきっちり敷いて頭まで布団を被っているが、はみ出た黒髪には覚えがある。山崎と名前を口にしてみるが布団はぴくりとも動かない。 昼休みが終わって少し過ぎた刻限で、屯所内は出払っている者が多いから静かなものである。日差しは温かいが、きん、と冷えた空気が気持ちの良い、冬らしい陽気の午後だ。非番の日の昼間、天気が良いとなれば何が楽しいのか庭でラケットを振っている山崎が、こうして土方の自室で勝手に寝ているときは、酷く疲れていたりするときだ。仕事の報告などでひとの出入りは多い部屋だが、元より自分を遠巻きにしている隊士たちがこの奥の部屋に来ることは仕事以外では滅多にないので、こんな真昼間の半端な時間では却って他の部屋よりも安眠出来る。 布団の端を摘んで覗くと、眠っている見慣れた顔には表情がなく顔色も良くない気がする。いつもはどんなに殴ったりしても平気そうにしているので、こういう状態の山崎に土方は滅法弱い。そうして山崎は、そのことをしっかり心得ているのだった。 見た目よりやわらかい髪に少し触る。もう一度名前を呼ぶ。矢張り山崎は起きないので音を立てないように口を寄せた。髪は冷たいので手に触りたいけれど、布団の下になって見えない。いつもみたいにへらへら笑ってろよと言えば、いつの間に起きていたのかあんたこそいつもみたいに怒ったり怒鳴ったり殴ったり好きに振舞ってなさいよと小さな声で返事があった。最悪だなそいつ誰だよと思ったが、自分のことである。お前いつもそんな風にしか俺のこと思ってないのかと頭に血が上りかけたが、色の悪い山崎の肌を見ていたら怒る気持ちが萎えてしまった。代わりに普段が普段なので、こんなときくらい優しくしてやろうと思っているんだとそういうことを言えば、あなたがやさしいのを俺はちゃあんと知っているから、そんな殊勝なこと言っていないで手でも取ってくれたら良いと、触りたかった手が布団から出て来た。 にゅっと出て来た手は顔よりはましな色をしているけれどそれでも驚くほど白い、そうして低い温度をしている。土方さん手あったかいですねえと普段の話し方にいくらか近い声音を出して、それきり山崎は黙ってしまった、眠ったのかもしれない。あまり力を入れないように手を握り直しながら、自分が出来ることはこんなものなのかと、途方に暮れている。 六花と落日 (090115) |