くしゅん、と小さく聞こえて振り向く。
「え、なに花粉?」
「風邪、かも」
つーかなんでうれしそうな訳、と睨まれて、俺は自分の頬を両手で覆ってみせ る。
「え、ワタシうれしそう?」
「キモい」
「ふうん、わかった今度浜田に言っとくわ」
「なんで浜田」
「だって今の、オカマの真似する浜田の真似だもん」
「わっかんねえよ」
ようやく少し笑った。よかった。
「つーか梅は、俺が風邪ひいたりとかさ、具合悪くなるとあからさまに喜んで んじゃねえよ」
「いやだっておまえ」
「なに」
「……うん、」
なんだよ!と珍しくむきになってヘッドロックしてくる腕からすり抜ける。腕 力では敵わないので技かけるのは勘弁してください。
弱ってる梶山が好きって、まあ、わかんねえだろうなあこの感覚。
梶山は好きなひとにはしあわせになってもらいたい類の人間だ。迷いなく。( 例えそれが自分の側じゃあなくっても)俺はそれが気に入らない。俺は好きな ら側においときたいし、ましてや相手も自分のことを思ってくれているなら離 れてお互いしあわせになれるなんて思ってなかった。その場合はおれがいちば んしあわせにしてやれると、盲目的に信じている。それはもうずっと。(だって こんなに好きなのだし)同時に無理だろうという矛盾した甘すぎる自覚はある、けど、俺はまだ若いので今はこ れでいい。
「お前、さあ」
考えこんでいたので左腕をとられていることに気が付かなかった。ぐ、と力を 入れてつかまれる。なに
「え、あ」
バランスを崩した拍子に口を付けられて、それもメガネをしたまま上手にする ので腹が立って入ってきた舌を噛んでやろうとしたところで梶山は離れていっ た。あれ
「飴もらったからな」
さっきまで口にあった飴は梶山の口のなか。
「欲しかったらふつうに言えよ」
おれらなにしてんの?と笑って楽しい気分になったので、その飴が花粉症用の だという事実は黙っておく。おれにはもうひとつ矜持があって、好きなひとを、自分の手で少しだけ不幸にしてやりたい。花粉症は俺なんですよ梶山くん










キャンディと放課後





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その後梅は風邪をもらう
070316