※19話関連捏造です※





笑って全てを仕舞いこんだロックオンは、プトレマイオスに戻ると早々に自室 へ籠もったようだった。食堂ではクルーたちが交代で食事をとっている。その 中にティエリアを見つけてひとつ席を空けた隣に座った。
ひとことふたこと、思い出したようにティエリアと話をして食事をしながら、 向かいの空席を見る。考えるのはたったひとりのことだった。



自室へ戻ると何故かロックが解除されていた。開け方を知っている人間は少な い。電子音がして扉が開く、よお、とひとのベッドに横になって随分寛いだ様 子で片手を上げたのは、食事の間中考えていたそのたったひとりだ。

「……なにしてる」
ロックオン、と呼びかけようとしてことばはごくりと飲み込まれた。本物の名 前を知ってしまって、今はまだ薄っぺらなコードネームを口にする気にはなら ない。
「もう寝るか?」
「ああ。確認事項もない、明日のこともなにも言われていないし、」
「なに」
質問は無視するくせに尋ねる声は極端にやさしくて、そういうところがどんな 人間よりも残酷だった。
「疲れた」
口を利くのも面倒でどうして来たとか聞きたかった色々を全部飲み込んで、ベ ッドで寛ぐロックオンの隣に潜り込んだ。なんだ、眠いのかと言う声は無視す る。



ロックオンとはよく一緒に眠った。幼かった俺を気遣うそれから延長して、今 でも時折ベッドに忍んで来ては俺の眉間の皺を増やす。
お前の方がまるで子どものようだと、言ったことがある。ロックオンは笑って おやすみと頬に口を付けてきただけだった。
はぐらかされてばかりだ。向けた背中をぎゅうと抱きしめる手にいつもの手袋 はなかったが、微かに硝煙の匂いがした。しばらくは近寄って来ないだろうな、 と思ってたのに、その手はいつもと違わずに自分に触れてくる。
「もう寝たか?」
ぎゅっと目を閉じて聞こえない振りをする。そんなものはきっとばれているだ ろうに。
「好きだよ、」
どんな名前でもと、そう言ってまわっている腕が強くなる。いつものようにた だ包む抱擁ではなくて、加減のない腕がうれしかった。



いくらかして規則正しい呼吸が聞こえてくる。眠れなくてぱちりと開いた目は 、癖のあるやわらかい髪を映していて、それは闇にまぎれて自分と同じ色をし ているように見えた。
「おやすみ」
一度も名前を呼んでもらえなかったことに気が付いている。素肌に染み付いて しまった匂いを思って涙が出た。






その名をもう一度呼べたなら







(080227)