慰め合いではなくこの手を伸ばしてしまう理由を、君は知っているのかと独り言のように言う小さな声が夜に響くので、聞こえない振りをした。知っている。けれどもその説明が果たして正しく他人に響くものであるかどうか、自分には判断出来ないのだ。地上は嫌いだと頻りに言っていた4年前とは違い、日の光を眩しそうに見つめるティエリアの目線を好ましく思う。思わずその日に透けた髪に手を伸ばしてしまうくらいに。

昼に手を伸ばした髪は、今は夜闇を吸ってしっとりと暗い。自分のものは夜に溶けそうになっているかもしれないなと思う。ティエリアはひと言も口を利かない。
くちびるを合わせる前に舌を合わせて、そのまま首筋に顔を寄せる。うなじにかかる髪を避けて口を付けていたら、君はと短く切って少し間を空けた後に、長い髪が好きなだけじゃあないんだろうかと聞こえた。
ぽかんとしてしまって二の句が継げなかったのでティエリアの顔をじっと見れば、至極真面目ぶった様子である。笑ってはいけないのだろうな、とはわかっていてもどうにも堪え難いので、キスをして誤魔化した。それをどう取ったかは知らないが、憮然とした表情で口元を拭うと、身体を倒してきた。

どうにも複雑そうな顔をしているくせに、よく勃つなと言えば余計なことばかりと身体の奥を気遣いなく抉られた。上がる声は普段よりは高くてもどうやったって男のものなのに、中に入っているティエリアの性器が衰えることはないし、腹に力を入れることでティエリアが漏らす声には興奮するのでやはり不思議だなと思う。ティエリアとのセックスはいつもそうだ、気持ち良くていとおしいとは思っても、どこかで冷たい思考が不思議だなと思っている。
余所見をしている余裕があるのかと不愉快そうな声がするので、そんなことはないとまた口を合わせた。お前はそんな誤魔化し方や思っている肝心のところをひとに言わなかったりする良くない部分ばかり誰かに似てしまったと、ティエリアはそういうことを言った。俺の口数が多くないのは昔からだし、肝心なことをひとには話さないのはあんたも一緒だろうと、言いたかったけれどやめておいた。代わりにあいつの好きだったところは髪じゃあなくて手だったんだと教えてやった。どうしてそこでまた平手が来るのか俺にはわからないけれど、こんなに感情的な人間を髪だけで好きになれるはずがないということに、どうしてその優秀な脳みそは気がつかないのだろうかと、そのことがとても気になる。





感情線照らせサーチライト









(081230)