※刹那がぎっちょんおっさんに撃たれた後のいつかのお話※ うっかりシャワールームで行き会ってしまって、しまったという顔を自分はしたかもしれなかった。なんとなく既視感があるなと思うけれど、胸の奥が鋭く苦しくなったので、これは思い出さなくて良い類のことだとすぐに気が付く。濡れた紫の髪に包まれた真っ白な顔に眼鏡がない。 顔をしかめたままのティエリアはなにも話さないけれど、自室までの道は1つだし離れて歩く理由もないので連れ立ってお互い自室のある方へ行く。先にティエリアの部屋の前まで来たところでちらりとこちらを見るので、良いのかなと一緒に部屋に入る。相変わらずティエリアは口を利く気がないようだ。 部屋に入ったところで、上に着ていた黒のアンダーを剥かれてなんだと声を上げる。傷とひとことようやく口を開いたティエリアは右腕の傷に触る。湯に当たったばかりの手は普段より熱い。問題ないと言ってみたけれど、これが治っていないことなどとうに知っているに違いない。君には長生きをしてもらわなければならないのだと、なにかを堪えるように下を向くので紫の髪しか見えない。とん、と頭を肩の辺りに付けてくるので、似合わない仕草に驚いてよろける。このくらい支えて見せろと言って上げた顔は苦笑いだったけれど、弱弱しいものではなかったので安心した。このひとのそんな表情はロックオンにだけ向けていてほしいという身勝手な願いを、ずっと持っている。 ティエリアが思っているよりもずっと自分は彼を大事に思っているし、なにかあったら自分が助けるし守るのだとも思っている。ロックオンはみんなのこころの支えであったろう。それは自分にとって今だって変わっていなくて、誰かにとってもそうであってほしかった。身勝手が過ぎるけれど、自分が好いているのは、刹那にしゃんと伸ばした背筋を見せて、自分は人間でそうして自分の意志で戦うのだと言ってみせるティエリアでなのであった。 急に肩のあたりで濡れた感触がして、見ればティエリアは傷口をべろりと舐めていた。痛いかと聞かれる。奇妙な感じがするだけで平気だった、それよりも濡れた髪が肌に触るのがくすぐったい。冷たいと言って傷口に吸い付いているティエリアの前髪を横に流してみると、少し笑ったような気がする。ああかわいいなと思い出したように思って、久しぶりに口を合わせているうちもう少し触りたいなというところで、髪を乾かさないと湯冷めする、君もだとベッドまで引っ張られてドライヤーを片手にしたティエリアに馬乗りにされた。なんだかこのひとは絶対的におかしいな、ひとの服を剥いたのはお前じゃあないかと言ってやりたいのに、髪を乾かす手つきが存外に男らしいのでもう面白くなってしまって、なにも言えなかった。 真夜中でもバカンス (080208) |